2024年12月10日火曜日

インタビュー企画 part1 : 脳炎に挑む、 TBAで広がる自己抗体測定の新しい可能性

 

今回、富士吉田市立病院 脳神経内科の天野稜大先生に、TBA(ティッシュベースアッセイ)を用いた「MOSAIC 3 (モザイク スリー)」の使用感や臨床現場での実用性についてお話を伺いました。本技術は海馬や小脳の組織スライドを染色パターン解析に活用し、自己抗体を測定する手法です。

 

u  医療の現場から見る導入のリアル

Qまず、MOSAIC 3の使用を開始されたきっかけについて教えていただけますか?

 PNS(傍腫瘍性神経症候群)セットのラインブロット検査だけでは正確な判断が難しいんですよね。ラインブロットは偽陽性も多いとも言われていて、きちんとTBAでも確認したい。どちらかというと、先にTBAを行って、陽性所見があったら、ラインプロットで確認するっていうやり方をしたいのです。要するに、どちらも必要だけれども、 ラインブロットしか検査提出できないので、「どうにかならないかな?」と思ったんです。

そこでEUROIMMUN社の製品を調べたら、研究用試薬ですがあるってわかって。柏のラボに行って使い方を教えてもらったら、「これなら自院でもできる!」と思いました。

TBAなら一度にいろんな抗体を調べられて、結果も早い。しかもNMDA受容体抗体を外注に提出するより安いんです。こうしたメリットを病院内で説明して、導入が決まりました。


 u  使い始めの苦労と慣れるまでの流れ

Q使い始めていただいた頃は使用は難しかったですか?

アッセイ操作そのものは全然難しくなく、蛍光顕微鏡があれば可能です。使い始めた頃は、陽性だと思った結果をEUROIMMUN社に画像判定の確認を依頼したところ「特異的ではない」と返答されることが何度かありました。その中で、結果を見比べながらパターン化を進め、自分なりの基準を作っていきました。

だいたい6回ほど検査を行った頃から、染色パターンの違いに気づけるようになりました。10人目の患者さんぐらいの時には、判断に少し自信が持てるようになり、訓練を繰り返しながら経験を積みました。

EUROIMMUN社には4回ほど写真を送って確認を取りましたが、結果はすぐに返ってきたので、とても助かりました。こうしたフィードバックをもとに、自分の目での判定に慣れていった流れです。

 

u  抗体測定はどうやって患者さんの治療に役立つの?

Q具体的に、どのような患者さんを対象に自己抗体の測定を行うことが多いのか教えていただけますか?

 

脳炎の患者さんは、MRIや髄液検査で異常が見つかることが多いのですが、感染症なのか自己免疫性なのかはその場では分からないことが多いです。

だから当院では、疑わしい患者さんには全例TBAを実施しています。数が多くないので可能なやり方ですが、昨年は10人の患者さんに検査を行い、そのうち4人で自己抗体がある可能性を確認できました。ただ、NMDA受容体抗体が出た人はいませんでした。

TBAのいいところは、特定の抗体にこだわらず、「何か自己抗体があるか」を広く調べられることです。その結果、感染ではなく自己免疫性だと分かれば、それを根拠に治療が進められます。それだけで患者さんの予後を良くできる可能性があります。

結局、治療の初期段階では、「何の抗体か」より「自己抗体があるかどうか」が重要なんです。TBAの感度は必ずしも高くないですが多くの自己抗体を検知可能なので、何かの自己抗体があることが分かるだけでも十分に役立ちます。


   u早期治療のアプローチ:ステロイドパルスとIVIgの併用

自己免疫性脳炎の治療では、ステロイドパルスとIVIgの併用が推奨されています。ただ、IVIgをどの段階で使うかは医師の判断次第です。感染症の場合は、特にヘルペスウイルス族が疑われることが多いですが、多くの一般病院ではPCR検査の結果が返ってくるまでに数日から1週間弱かかります。

このタイムラグを考えると、結果を待ってからIVIgを始めるより、感染と自己免疫のどちらの可能性にも備えて早めに治療を進めた方が、予後の改善につながる可能性があります。ただし感染性脳炎の治療にIVIgを行ってもあまり有効ではなく、むしろ血栓症などの副作用で状況を悪化させてしまう可能性もあります。IVIgを行うべきかどうかを早期に決定するのにTBAの結果は大きな参考になります。厳密なデータはないものの、早期に治療介入できたほうが患者さんの回復に有利になると考えられます。

 

u  TBAが治療のきっかけになった具体的な症例

QMOSAIC 3」を使用した自己抗体測定が、臨床現場で特に有用だった患者さんの印象的な症例があれば教えていただけますか?

 

特に印象的な例として、30代男性で小脳が異常に萎縮している患者さんがいました。MRIには明確な異常信号がなく、脊髄小脳変性症のようにも見えたのですが、髄液検査で細胞数がわずかに増加している程度で、血液検査では炎症所見がありませんでした。

気になってTBAを行ったところ、小脳に染まる自己抗体があることがわかりました。さらに北海道大学で検査を依頼した結果、極めて稀な抗体「Sez6l2抗体」が陽性であることが分かりました。これがなければ、診断がつかず治療の選択肢が得られなかったかもしれません。この患者さんは現在治療中ですが、診断を間違えず治療を進められたのはTBAのおかげです。

また、他にも自己抗体の特定には至らなかったものの、TBAによって自己免疫疾患が疑われ免疫治療を行い、患者さんが改善した例が3例ありました。抗体が何であるかよりも、

感染ではなく自己免疫疾患だと判断できたことで、治療を進めることができたのは大きなポイントです。

 

u  脳神経内科の先生にモザイクを勧める理由

Q脳神経内科の先生がどのような状況で困っている場合に、このMOSAIC 3を活用することで解決の助けになるとお考えですか?また、どのようなケースで特に使用をお勧めしたいですか?

 自己免疫性脳炎の診断には、TBAは基本的なツールです。特に蛍光顕微鏡さえあれば、MOSAIC 3を使ってTBAの結果とNMDA受容体抗体かの有無を自分の目で確認できます。操作は簡単で、結果は90分程度で出すことができます。NMDA受容体抗体を外注する場合に比べて費用も安く、結果が早くわかるメリットがあります。

NMDA受容体抗体の外注では結果のみで画像が戻らないため、微妙なラインの判定や臨床状況との合わせ技が難しいですが、MOSAICを使えば自分で見て判断できます。最初は慣れが必要ですが、ピカッと光るものや全く光らないものは誰でも判定可能ですし、淡く光る場合は低いtiterであっても自己抗体が存在している可能性があります。自分の目で確認することで、治療への迅速な対応が可能になります。

特定の抗体が含まれるMOSAIC 6なども同様に活用できますが、TBAが施行できないのが欠点です。また、TBAは特に血清では判定が難しい場合もあるので注意が必要です。それでも、自分の手で早期診断を進めたい先生には、非常に有用なツールだと思います。


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